帝国世界記・塔の章
――煙の塔と甘き影――

王城東、厨房の真裏にそびえる高塔。
その塔は、王城で最も古い建築物の一つとして知られている。
煙の塔――そう呼ばれるその塔は、本来は「厨房から立ち上る煙」を外へ逃がすための巨大な煙突として建てられたものだ。
厨房の位置が城の中央寄りにあるため、煙がそのままでは王城内部に流れ込んでしまう。
それを防ぐために、煙は段階的に分散され、高い塔を通って風下へと排出されるよう設計された。
この塔は実用性を追求した構造にもかかわらず、建造から数百年の時を経て城の象徴のひとつとされ、
風向士と清掃人によって今日も守られ続けている。
──そしてこの塔には、建設当初から続く「ある奇妙な話」がある。
🌰 甘い匂いと“転がる菓子”の怪
晴れた日や宴の支度がある日に限って、塔の内部から“コロコロ”と音が響き、
やがて地上にどんぐり菓子が転がり落ちてくるという。
風向士や清掃人、厨房の給仕――目撃者は枚挙にいとまがない。
誰もがその音を聞き、菓子を拾い、しかし犯人を見た者は一人もいない。
塔の最上階を調べても、人影も仕掛けも見つからず、
ただ甘い香りだけが、静かに漂っている。
この出来事は“煙の塔の甘い怪”と呼ばれ、
帝都の民の間で長く語られてきた。
👑 そして、王は知っていた
ある春の昼下がり、テラスで本を読んでいた王が、
甘い香りに誘われて塔へと向かう。
誰にも気づかれぬよう通用口から忍び込み、階段を登る王。
途中で転がってきたどんぐりを拾い上げ、
「(ふむ。今日は“あたり”の日のようだ)」
と、ひとりごちる。
最上階には誰もいない。
しかし、甘い匂いははっきりと残っていた。
王は静かに窓辺に歩み寄り、上空を見上げてつぶやく。
「今日も良い眺めだのう……のう、アリネ」
すると頭上から、もぐもぐ音混じりの声。
「は、はいっ……今日もいい天気ですっ モグモグ ング」
屋根の上には、
袋いっぱいのどんぐり菓子を抱えて頬張るアリネの姿があった。
🌿 事件の真相
犯人は――
王に仕える小柄な側使え、アリネであった。
厨房で余ったどんぐり菓子をこっそり拝借し、
塔の上でひとり、甘い香りと春風を楽しむのが、
彼女のささやかな楽しみだった。
見つかりそうになると窓から屋根に飛び移り、
いつも塔の影に身を潜めていたため、
これまで誰にも見つかったことがなかった。
王はとっくに気づいていたが、咎めることもなく、
ただ一言、春の日に笑いながら声をかけたのだった。
📜 後世への記録
この話は、戦や陰謀とは無縁の穏やかな帝国の日常譚として、
王国史の片隅に刻まれることになる。
さて、この話はどうやって知られる事になったのかは誰もしらない。
🏰 「煙の塔と甘き影」
──甘党の側使えアリネと名ブタ王の、ささやかな春の日。
今日も塔には甘い香りが漂い、
どんぐり菓子が一つ、二つと転がり落ちている。










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