アリネの手記 ― 笑顔

〇月〇日
王宮を後にしたところ、子どもたちが待ち構えていた。
彼らは楽しげに笑いながら、両手いっぱいのどんぐりを放り投げ、僕の羽根や衣をあっという間に埋め尽くした。
最初は驚いたけれど、その笑い声の明るさに、むしろ心が温かくなる。
そこへ侍女が駆けてきた。大きな袋を抱えていて、息を弾ませながら僕に差し出した。
「アリネ殿、陛下からでございます!」
袋を開けると、小袋に分けられたどんぐり菓子がぎっしりと詰まっていた。
香ばしい焼き菓子、蜜に浸した飴、薄く焼かれた煎餅……。
どれも素朴でありながら、どこか帝国の恵みそのものを感じさせる味わいが漂っていた。
陛下は「子らに分け与えよ」とお言葉を残されたという。
その御心を胸に、僕は子どもたちにどんぐり菓子を配った。
どんぐりを浴びせてきた彼らの小さな手が、今度は嬉しさで震えている。
笑顔がはじけ、歓声が空に舞い上がった。
――どんぐりは知恵の種だと、僕は思っていた。
だが今日、それは確かに笑顔の実りでもあるのだと知った。
ひとつ自分でも口にしてみた。
ほろ苦さのあとに広がる優しい甘み。
その味は、この帝国の未来を支える力そのものに思えた。









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