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名ブタ帝国記|ピグ王国の慈悲王

ー民を見捨てられなかった王の物語

王冠をかぶった豚の横顔と、背景に古代遺跡風の建築を描いたイラスト。「名ブタ帝国記」の文字が大きく中央に配置されている

まだ帝国が一つにまとまる前――
後に帝都ピグスラードとなる地に、ピグ王国があった。

ある時、周辺を襲った戦乱によって多くの民が家を失い、
彼らはピグの西方を流れるブブゥ大河の河畔に集まり野営を始めた。
ピグが戦火を免れていたからである。
なにより、慈悲深いと評判の名ブタ王を頼ってのことだった。


王の逡巡と決断

城よりその様子を見下ろした王は悩んでいた。
数万の難民を受け入れれば、森も川もあっという間に尽き、ピグ民も危うい。
だが拒めば、自分を頼って集まる難民を見捨てることになる。

夜、眼下に広がる無数のかがり火が王には、命の火に見えた。

やがて王は静かに決断した。

 — あの灯を消してはならぬ・・・

「倉を開放せよ。
ピグの民五万人が半年は食いつなげる蓄えがある。
城下に触れを出せ――一言でよい。
『隣人にパンを分け与えよ』と。」

この布告により、川辺の野営には初めて湯気が立ち上り、
夜空には焚火と炊煙が星々のように広がった。


竜公国との盟約

しかし救済を続けるには国力を超える負担となる。
そこで王は弟、トンタルネ北方伯を竜公国に使者として遣わした。

竜王は旧知のトンタルネとの交渉を受け入れ、
物資(木材・石材・石炭)の援助と難民警護の兵を派遣することを約した。
代価は三年後、さつまいも収穫の半分を10年間無条件で供給することであった。

この盟約によって難民は住居と燃料を得て、
治安も守られ、救済は現実のものとなった。

王の難民支援

名ブタ王は難民を救うために、彼らを六つの集団に分け、
信頼できる貴族に統治を任せた。

ひとところに群衆を押し込めば、統制は失われ、
森や川の資源は瞬く間に尽きる。
火事やいさかいが起これば、たちまち手がつけられぬ大惨事になる。
だからこそ、王は難民を分散させたのである。

まずは飢饉に強いさつまいもの栽培を命じ、
不足する種芋は諸国からかき集めさせた。
しかし現在の備蓄では、半年を凌ぐのが限界――
その間に新たな収穫を得ねばならなかった。

さらに王は長期的な薪や木材の不足に備え、
どんぐりを用いた植林を始めさせた。
それは「今日を生かし、明日をつくる」ための、王の賭けでもあった。

三年後の子供たち

三年の歳月が流れた。
あの時、飢えで痩せ細り、笑顔を失っていた子供らは――
今や豊かに実る芋畑の周りを駆け回り、無邪気に笑っていた。

城下の広場では、子供たちがアリネにどんぐりを投げつけて遊んでいた。
「やーい!どんぐり妖精!」と声をあげ、笑いながら逃げる子供ら。
その光景を眺める名ブタ王は、ただ静かに目を細め、口元に温かな微笑みを浮かべていた。

それは王にとって、どんな勝利にも代えがたい報いだった。
慈悲が形となり、未来が芽吹いたことを示す、生きた証だったのである。

後日譚

名ブタ王の難民救済は、王自身の思惑を越えて国の姿を変えていった。
もとより王はただ「隣人を救いたい」と願ったにすぎなかった。
だが、救われた人々は土地を耕し、森を拓き、家を築いた。
彼らは王国の民となったのだ。
その営みは王国の外縁を広げ、国力を押し上げることとなる。

やがて難民の中からは胆力と知恵を備え、
貴族と力を合わせて人々をまとめる者が現れた。
彼らは後に辺境伯として国境を預かり、
ピグを守る「国の盾」と呼ばれる存在へと成長していく。

後の史家はこの時代を振り返り、こう記した。

「慈悲は国を弱めず、むしろ強めた。
救われし者たちが、やがて国を守る者となった。」

 


 

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Posted by 名もなきブタ

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